1.コミュニケーションエラーとは?
まず、「コミュニケーションエラーとは何か」について簡単に定義しておきましょう。
対面・電話・無線などで会話をしているときに、話し手の意図が聞き手に正しく伝わらなかったエラーのことです。話し手・聞き手の両方に問題があるケースが多くあります。
2.コミュニケーションエラーが関係した代表的な事故
では次に、コミュニケーションエラーが関係した事故事例についてみてみましょう。事故は様々な産業で発生しています。以下の例を紹介します。
- 最大の航空機事故:テネリフェ事故
- 鉄道の大事故:桜木町事故
- 最近の鉄道事故:川崎事故
- 最近の航空事故:海保機とJAL機の衝突事故
- コミュニケーションエラーが7割を占める:医療事故
2.1 最大の航空機事故:テネリフェ事故(1997)
航空事故史上、最も多くの死者が出た事故です。ポイントを以下にまとめます。
- 管制官とパイロットの間でコミュニケーションエラーが発生したため、ジャンボ機同士が滑走路上で衝突した事故(死者:583名)
- 無線の混信が発生する中、KLMオランダ航空の機長が、管制官による「離陸準備の承認に関する無線通話」の中にあった「離陸」という言葉を聞いて、離陸自体が承認されたと勘違い
- その結果、まだパンナム機がいる滑走路上で離陸を開始したことが、衝突の原因
- 事故の要因はそれ以外にも、濃い霧の発生(視程の低下)、大幅な遅れによるパイロットの焦り、航空機関士の「パンナム機がまだ滑走路上にいるのではないか」との進言を機長が否定したことなどが関係
2.2 鉄道の大事故:桜木町事故(1951)
もう半世紀以上前の事故ですが、鉄道史上、多くの教訓を生んだ事故です。
- 電力係員と駅信号係員のコミュニケーションエラーにより発生した列車火災事故(死者160名)
- 駅構内で架線の碍子交換作業中、誤ってスパナをビームに接触させたため、架線が切断
- 電力係員は「列車の上り線への進入はダメだ」という意味で「上りはダメだ」と言ったが、駅信号係員はそれを「上り列車の駅進入はダメだ」と理解し、下り列車を上り線に進入させた
- そのため、架線の切断している線に列車が進入したため、火災が発生
- また、木材が多用された車両、車両間の扉が内開き、車外への窓の幅が30センチ、手動でドアを開けるコックの存在が旅客に未周知など、火災の被害を拡大する要因が多くあった。
2.3 最近の鉄道鉄道:京浜東北線川崎駅列車脱線事故(2014)
コミュニケーションエラーが係った最近の鉄道事故として、川崎駅で列車と工事用重機が衝突し列車が脱線した事故を取り上げましょう。
- まだ線路閉鎖(線路の交換など、列車が進入すると事故が生じうる区間に列車が進入しないようにする手続き)が取れていない線路に工事用重機を載線してしまったため、京浜東北線北行の最終列車がその重機に乗り上げ、脱線転覆した事故(回送列車であったため被害者は社員2名の負傷のみ)
- 事故の発生には多くの要因が係わっていたが、営業列車が走る線に重機を載線させる最終的な引き金になったのは、コミュニケーションエラー
- 具体的には、重機の安全指揮者が「ここまでいいですよ(※京浜東北線北行は含まれていない)」と言ったのを重機のオペレータが「入れていいよ(※北行まで含めて)」と聞こえたために載線が行われた。
2.4 最近の航空事故:海保機とJAL機の衝突事故(2024年1月2日)
この事故はまだ運輸安全委員会から報告書が出ていないので明確には言えませんが、コミュニケーションエラーが原因の一つと考えられます。
ここでは国土交通省が発表した管制塔とJAL機・海保機との交信記録や各種報道記録に基づくWikipediaから情報を引用します。wikipediaの情報
- 17時44分56秒に管制から516便(筆者注:JAL機)に滑走路は着陸に支障ないことと風向風速の情報の伝達があり、45分01秒に516便より復唱があった。以後516便は着陸進入を継続した。
- 17時45分11秒に管制から、みずなぎ1号(筆者注:海保機)へ、C滑走路脇の停止位置C5への走行指示ならびに順序ナンバー1の伝達があり、同19秒にみずなぎ1号は指示内容を正しく復唱し、離陸順序を優先されたことに感謝の言葉があった。しかし、みずなぎ1号は滑走路手前まで走行するという指示に従わず、停止位置C5を越えて滑走路へ進入し、停止した。
つまり、管制官は、海保機に対して滑走路上への進入を許可していないが(JAL機が着陸態勢に入っている)、海保機は滑走路に進入したことになり、コミュニケーションエラーが発生していたと考えられます。
2.5 コミュニケーションエラーが7割を占める:医療事故
医療事故に関しては、特定の事故事例ではなく、コミュニケーションエラーの影響の大きさを見てみましょう。日本産婦人科医会のホームページには、以下のような記述があります。
「医療事故の根本原因としてコミュニケーションエラーがその要因の7割近くを占めるという報告が米国から上がっている」
医療行為は、医師・看護師などのチームで行われますし、コミュニケーションの対象には当然、患者自身も含まれます。適切なコミュニケーションが安全な医療の条件になっており、その裏返として、コミュニケーションエラーの事故への関与が7割という数字が出てくるのだと思います。